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「…………」
涙を流しながら食べる琴乃を見て、信司はいたたまれない気持ちになった。
(こいつ……、ほんとに今まで全然物食ってなかったんだな……)
むさぼるように食べる琴乃を見て信司はそう感じる。
とても毎日食べ物にありつけていたような食べ方ではなかった。
食べ物に飢えている、そんな食べ方だった。
同時に琴乃の境遇が気になり訊こうかとも思ったが、その様子を見て信司はやめておいた。
(まあ、追々知ってきゃいいか)
そう思い、信司も自分の分のオムライスを食べ始める。
その日は、食べ終わって余っていた新品の歯ブラシで歯を磨いたあと、琴乃はソファで寝てしまった。
相当疲れていたのだろう。
「ったく、仕方ねえな……」
風邪でも引いたら困る、と琴乃を起こさないように抱き上げて信司は彼女の部屋に運ぶ。
そのままベッドの上に静かに置いて布団を掛けた。
ふと信司はぶかぶかのスウェットで無防備に眠る彼女を見る。
「すー……、すー……」
目を閉じて小さく息をする彼女は、凛としているでもなく、ド変態オーラがあふれでるでもなく、綺麗な一人の少女だった。
謎に満ちたこの少女が今までどんな生活をしてきたかはわからない。
だが面倒を見ると約束したこれからは、これが自立出来るまで自分が面倒を見よう。
きっと彼女も、それくらいは許してくれる。
信司は自らの首にかかったネックレスを握り締めて、そう心に決めた。
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