プロローグ

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「誰だアイツ」 日下部信司はぼそりとつぶやいた。 日差しのキツい、真っ昼間のことだ。 彼はその外見から所謂不良に分類されるだろう。 これでもかとブリーチした白に近い金髪に両耳のゴツいシルバーピアス。 人より頭二つほど大きく、筋肉質のがっちりした体躯。 そして常に他人を威嚇するような目。 そんな只でさえ凶悪な目つきを三割増しで鋭くして信司は前方を睨む。 その目線の先は日下部宅……の玄関に立つ一人の女。 いや、恐らく少女か。 泥まみれの汚い格好に、これまた浅黒く汚れた肌をした背の高い少女。 あまり物が入っていない鞄をぽん、と肩にかつぎ、信司はずかずかと少女に向かって歩いていった。 「!」 少女が足音大きく近付く信司に気がつく。 そしてニヤリと、一瞬だけ笑う。 「…………」 それは一瞬だったため信司は気付く事はなかった。 だが彼はそんなことなど関係なく冷たい目で少女を見下ろす。 「おい、てめえ何して――」 「お前が日下部信司か?」 「――あ?」 少女は信司の言葉を、きれいなアルトの声で遮った。 「お前が日下部信司かと訊いているのだ」 「……誰だてめえ」 「ああ、すまんすまん。こちらから名乗るのが礼儀というものだったな」 ハハハ、と笑って少女は言う。 「私は神楽琴乃。お前が日下部信司だということは既に承知している」    「あ?」 なんなんだ、とこの意味のわからない少女に更に警戒心を高める信司。 そんな信司をハッハッハと笑う琴乃。 「そう訝しげな目で見るな。詳しいことはお前の父親に訊け」 信司は琴乃のいちいち高圧的な口調に苛つき始めていた。 更に父親は何かしら知っている。 この事がもっと信司を苛立たせる。 「…………」 話すのも面倒になった信司は琴乃を無視して信司は玄関に入ろうとする。 「おいおいそれは新しい同居人に対して失礼じゃないのか?」 しかし琴乃の『同居人』という不穏な言葉に、信司の足が止まった。 そして振り返って琴乃を見る。 「……同居人?」 琴乃はよくぞ言ってくれましたとばかりに不敵に笑った 「私のことだ」  
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