第四章

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「…ドラゴンファングよ」  もう声が聞き取れるほど接近している。  涼は純に尋ねた。 「ドラゴンは竜でいいとして…ファングってのは…?」 「たしか…牙…だったと思うけど…?」  と、二人がウイングスの作戦内容に近づいた時、グッと力を込めた巧の声が耳に届いた。 「そのとーりっ! …これが竜の牙よっ!」  次の瞬間、地面と平行だった二機が合わさった両手を支点に九〇度機体をひねった。 「なにぃっ…!!」  そして、勢いよく手を突きだし―― 「散ッ!」  ウイングスはイダテンを挟み、ガバッと上下に分かれる。 「縦だって!?」  ドラゴンがあぎとを開き、かたまったイダテンを飲み込んでいく。  その直後、ウイングスは地面と平行にローリングを開始した。 「しまった…!」  慣性のため、静止状態からでは機体はとっさの動きに対応できない。  後方上から来るとばかり思いこんでいたが、真横に、しかも無防備に全身をさらしている角度でウイングスのローリングは終了する。  中途半端に機体を振り向かせたまま、イダテンは竜の牙にとらえられようとしていた。  はめられた! と舌打ちしながらも半身なって体をひねり、驚くべき回転半径でローリングを終えたウイングスに銃口を向ける。  巧と司もイダテンを射程に入れ、スティックのトリガーボタンに指をかけた。  静のイダテンと動のウイングス。  そして、四人はほぼ同時に引き金を引いた。  ガガァン、ガガガガガッ――  狙い澄まされた弾丸は衝突しそうなくらい狭い範囲を飛び交っていく。  猛然と応射しているイダテンだったが、それ以上に、手足、肩、胸、と所かまわず被弾している。 (このままじゃマズイぜ…)  ターゲットにも当ててはいるが、こう脇が開いた恰好では正確なポイントには弾丸を集められていない。 (これじゃあ分が悪いって…)  明らかにイダテン側のライフゲージの減少度合いが大きい。  涼はダメージカウント四つで応射をやめ、素早く片方のつま先のストッパーを外し―― 「純、ゴメンなっ!」  斜め前でホバリングしていた純のサドルを力いっぱい蹴っ飛ばした。 「ええ――っ!?」  純は衝撃に背中を弓なりに反らしたまま前方へと滑っていく。  反動で、涼もウイングスの弾幕から脱出に成功した。
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