第三章

29/33
前へ
/145ページ
次へ
動力降下に移った。  高度五〇〇強からの急降下。  たちまち地面が近づいてくる。  二人は目配せをかわし、お互いの銃を抜いた。  だがその手は後ろには向けられず、スティックを握る手に添えられた。  パーク内に設置された害虫駆除灯の薄明かりが闇夜をわずかに照らし出し、降下の先が地面ではなく池だという事を知らせる。  先ほどと同じGが、今度は下から突き上げてくる。  しかし、不思議と圧迫感はない。  ジュリアが火を噴くような勢いで迫りつつある。 「まさか…またヘアピンターン…!?」 「失敗したら…おしまいですわ…」  ウイングスのかすれた声が耳をくすぐる。  しかし、アクセルを踏む力は少しも衰えない。  もう、水面まではあとわずか。 「これ以上の降下はムリですわ!」  かすれ声が悲鳴に変わる。 「死んじゃうわよっ!」  だが、それでもブレーキは動かさない。 「大丈夫…だよ…ね、涼…」  答えはアイコンタクトで返した。 (ああ…コアが教えてくれてるんだ――) 「――いけるってなっ!」  四肢が一閃する。  水面ギリギリで、アクセル、ブレーキ、スティック、そして自らの体をフルに使い、二人は互いに反発し合う磁石のように真横に飛んだ。  投げ出した体が水面をかすめ、水しぶきをまき散らす。。  すぐあとにジュリアが降下地点へと近づいてくる。  その瞬間―― 「今だっ!」  フルブレーキに、逆制動をかけ、水面をなめるようにしてのヘアピンターン。  反発していた二機が一転して引き合うような動きを見せる。  そして二つの銃口が水面に迫るジュリアをとらえ、火を噴いた。  ドドォッ!  夜の池に二発の銃声がこだまする。  続けてベレッタの発砲音も、二発ずつ、計四発とどろいた。  しかし、二人が放った弾丸はジュリアを素通りし、お互いの胸に着弾していた。 「なっ…」  絶句して目を見開く。  今目にした事がとても信じられない。  それは遠目に見ていたウイングスも同じだった。 「そ、そんなことが…」  四人とも、言葉が続かない。  ジュリアは水面から五メートルのところでホバリングしていた。  確かに、ターゲットは自分たち以上の速度で池に突っ込んだはずだ。  それなのに、まるで水面にバネが仕込んであったかのように
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加