第三章

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機を立て直し、上昇した。 「これが…Bクラスの実力なのか…」  あ然としながらも、イダテンは池のほとりに機を降ろし、ゴーグルをはぎ取った。  ウイングスも隣りに機を揃え、汗まみれのヘッドギアを外した。  そこへ向かってきたジュリアだったが、四人の真上で再びホバリングし、降りてこようとはしない。  どうかしたのかといぶかるその目前で、ジュリアはガンを手にしたまま、苦しげに胸を押さえている。  大きいゴーグルと闇のせいでその表情をうかがうことは出来なかったが、明らかに荒い呼吸をしている。 「ど、どうかしたの?」  純が下から声をかける。  すると、ジュリアは今始めて彼らの存在を認めたかのように、びくっと肩を震わせ、コントロールスティックを引き倒した。 「えっ…?」  驚く四人をよそに、ジュリアはふらつきつつも上昇していく。  徐々に姿を闇に隠していくジュリアに、巧が声をかけた。 「負けたらコアを取られるんじゃないの?」 「……」  頭痛でもしているのか、ジュリアは額に手と銃のグリップを押しつけ、無言を押し通す。 「あんた大丈夫か? 医者呼んだ方がよくないか?」  ジュリアはゆっくりと首を振り、さらに上昇を続ける。 「あ、待って下さい!」  ジュリアの機影が見えなくなる直前、司が叫んだ。 「そんなにたくさんパープルコアを集めて、あなたはいったいどうしようというの!?」  もはや闇の一部となりつつあるジュリアは、重苦しい吐息を吐き出し、そこに答えが記されているかのように空を見上げた。 「…あの空に…帰るんだ…」  押し殺すような呟きを残し、ジュリアは夜空に消えていった。  しばらくは四人とも空を見上げたまま押し黙っていた。  池のほとりにはさざ波が断続的にうち寄せている。  風が出てきた。  汗ばんだ肌に強めの夜風が心地よい。  なんとなく何もする気が起きずに水面を眺めていた涼だったが―― 「う、うわぁっ!」  背後から投げつけられた純の素っ頓狂な声に首を振り向かせた。  純はバトル後のいつものクセで、ユニットの蓋を開けて中を覗き込んでいたのだ。  三人が顔を向けると純は自分のコアを胸に抱いていた。  心なしか、その手がわなわなと震えているように見える。 「つ、司ちゃん…ヘッドライトつけて…」
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