第四章

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 大会の朝。  目が覚めると、空に太陽の姿はなかった。  風はさほどではないが、黒い雲が低く垂れ込め、空に巨大な渦を巻いている。  涼は不思議な胸騒ぎを覚え、灯台の縁に立った。  いつもと違う空。  最近は晴天続きだったが、悪天候の陰鬱さは先月の梅雨でたっぷりと確認済みだった。  だが、この感じはそれにも当てはまらない。  いつもと違う雰囲気。  空気が淀んでいる。  涼にはそう思えて仕方がなかった。  その気分は迎えに来た純と共にセントラルパークまで飛び、受付の確認を行ったあとでも、どこか頭の片隅に引っかかっていた。  メガフロート・セントラルパークに集まる人出は、天候のせいか先日ほどではない。  それでも円形競技場は八割方の席が埋まっている。  滞りなく予選を通過した涼と純は外の選手待機コーナーで本戦前の慣らしに入っていた。  サドルの下のユニットに納められているのは紛れもなくパープルコアなのだ。  それを考えると自然に頬がゆるんでくる。  邦彦の忠告により、人には話していないが、心持ち押さえ目にバトルしていた予選はともかく、本戦では全力を出さないわけにはいけないので、動きで知られてしまうだろう。  同じく本戦出場を決めたウイングスと共に、本戦でPクラスゲーマーとして華々しくデビューを飾るつもりだった。  周りから隠すようにしてユニットの中を覗き込んでいた涼が、CZ75にシリコンオイルを注入していた純に声をかけた。 「姿が見えないけど、琳のヤツ、今日は来ないのか?」 「うーん、来るとは言ってたんだけどね」  純は軍パンの腰につけているホルスターに動作確認したCZ75をしまった。 「でも昨日も午後から飛びに行ってたらしくてさ、帰ってきたのはボクの後だったんだ。顔見せに来ないところを見ると、まだ寝てるか、素直にギャラリー席に行ったか、どっちかだと思うよ」 「そっか…この前送ってもらったお礼にパープルコアを見せてやりたかったのにな…」  残念そうに呟きくと、涼はサドルを戻し、エアバイを浮かせてみた。  軽くスティックを引いただけで機体が激しく傾く。  そのレスポンスの俊敏さに涼がにんまりとしていると―― 「ご満悦ですわね、イダテンさん」  先日と同じように、真上から派手な機体をピンポイントに降下させ、
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