第四章

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ウイングスが敵情視察に現れた。  二人とも、機体とペアのいつものツナギだ。 「今日もメンテしたげようか?」  巧がシートに座ったままの恰好で皮肉った。 「遠慮しとく。最近調子いいんだよ」  涼は軽くサドルを叩いて、さらりと返す。  イダテンとウイングスは本戦トーナメントの決勝にならないと当たらない。  それでもすでに火花は散っていた。 〈H&K〉の棄権により、今大会に出場したゲーマーのうちで、今現在Pクラスをコアを所有しているのはイダテンとウイングスのみとなっていた。  ウイングスの二人が機を降り、イダテンの元にやってきた。 「予選の動きを見た限りじゃ、Pクラスはあたしたちだけ見たいよ」 「わたしたちのように抑えていなければの話ですけどね」  イダテンと向かい合うように、芝生に座る。 「…ということはだ、よほどの間違いがなけりゃ、決勝はこの四人でってコトか」 「何だか因縁の対決って感じだよねー」  笑顔で人ごとのような会話を続けているが、その実、誰の目も笑ってはいない。 「途中でヘマとかしないでちゃんと勝ち上がってこいよ」  先ほどのお返しとばかりに涼が意地悪そうに言った。 「CADOSSの隊長さんが見ているとあれば負けられませんわ」 「負けるわけないじゃない」  と、巧が自分のエアバイにはれぼったい目を向けた。  昨夜から夜を徹して完成させた新しいエアロパーツがひときわ輝いて見える。 「見てよあの機能的なエアロラインを。Pクラスの性能を最大限に引き出すために前回よりも37センチも全長を伸ばしたのよ」  そんな、ほれぼれしたような顔の巧の横で、涼が先日と同じようにイチャモンをつける。 「また重くなったってコトだな」  しかし、巧は意にも返さず答えた。 「Pクラスはこのくらいのライトチューンで影響なんてほとんどされないわよ。むしろ機の安定につながるくらいだわ」  そう言った巧はイダテンの二台のエアバイに目を移し、しかめ面をつくった。 「あきれた。あんたたちいつものままじゃない。…フロントにカウルの一つでもつければずいぶん変わるのに」  二人のバイシクルタイプのエアバイを見て、巧が思い出したように付け足した。 「そうそう、琳ちゃんのエアバイってクリーム色のバイシクルタイプだよね?」 「え? 
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