第四章

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そして、決勝戦の開始を告げるカウントダウンが千人近いギャラリーの見守る競技場に響き渡った。 《…5、4、3、2、1――GAME START!》  スティックとペダルに血が通う。  涼はエアバイを跳ね上げた。  純も同じく垂直に飛び上がる。  イダテンは前後に、ウイングスは左右に並んでそれぞれ宙に舞った。  距離をとったまま、四機のエアバイが空に駆け上っていく。  自らが上昇気流となって低く垂れ込めた雲に向かって昇る。  十数秒で高度四〇〇まで機を引っ張る。  上空の風は思ったほど強くない。  これなら心おきなくいける。  もう、様子見はおしまいだ。  涼は素早くグロックを抜き、初弾をマガジンからチェンバーに送り込む。 「純、そろそろ行くぞ」 「ウイングスの…出方待たないの?」  マイク越しに純がCZ75をスライドさせた間が伝わってきた。 「ああ…だってそんなことはさせてもらえそうにないぜ?」  そう言って涼はレーザーサイトをウイングスの方に向けた。  ダットを避けるように二機のエアバイが並んだまま身をひねり、こっちに突進してくる。 「散開していくぞ」  フォワードを務める涼の合図で、イダテンは上下に散った。  並ぶウイングスを挟み込もうという作戦だ。  涼は緩いらせんを描くように上昇し、上をとった。  程良い角度をつけ、翻ってウイングスとのクロスポイントに向かって降下する。  サイトを合わせ、慎重に引き金を絞った。  挟まれた恰好のウイングスだが、まったく気にも留めない様子でアクセルを全開にし、機体を思いっきり加速させている。  大気の粒子が流線型のエアロに沿って滑らかに後方に流れていく。  風を切り裂いているという感覚はほとんどない。 「くーっ、コレよコレ。やっぱりあたしのセッティングはPクラスにも完璧にマッチしてる!」 「巧、浸るのはそのくらいにしてそろそろ行きますわ」 「OK、このスピードなら楽勝よ」  そう言って、巧は司のエアバイと限界まで接近させた。  呼吸を合わせ、パラレルのまま小刻みに進む方向を変える。  上から涼、下から純、その間をウイングスが高速で駆け抜ける。 「ちっ…速い!」  舌打ちし、続けざまに五発叩き込む。  純の弾丸とクロスするが、ターゲットにヒットはなかった。
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