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影のある女は、おかしげに唇を歪める。
「知ってますよ」
ならよかった、影の無い亡霊が肩を震わせた。
そして髪をなでる亡霊。
影のある生者は、影なき亡霊の冷たい指に目を閉じた。
「 」
風が窓から冷たい風が行灯の火を消した。部屋は月だけの光に照らされ、暗さが増し部屋の色は深く濃ゆくなる。
その寸前、生者が何かを呟く。
亡霊は、その何かを聞くことなくただ言葉を続けた。
「あなたは本当に馬鹿なお方だ」
「亡霊など、祓ってしまえばお終いだと言うのに」
「魂を削ってまで、私といるだなんて」
「馬鹿な方だ」
今頃は六道にいるんですかね。そうぼやけば、自分と同じく冷たくなった横たわる女の指に亡霊は唇をよせた。
そして明け方頃、そっと亡霊は消えてみた。
残ったのは、ただの肉だけだった
了
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