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その間ご丁寧にシフォンケーキも出された。
…俺の腹が減っていることをわかっての所行だろうか。ますます帰りづらくなってしまった。
否、このケーキを始末して帰ることにしよう。どうせ部屋にはなにもない。
カップに注がれた紅茶を見ると、一から淹れたのだろう、細かな茶葉が底で揺れていた。
「…ダージリン?」
一口含むと、深みのある苦みが舌に馴染んだ。
「よくわかったな。
庶民にしては良い舌してんじゃねえか。」
思わずムッとしたが、そこはグッと堪える。
「紅茶はわりかし好きなんですよ。
ティーパック程度ですが。」
「ほぉ…ま、ダージリンは舌よりも鼻で楽しむ茶だけどな。」
言って、ナルシストは座った。
「…向かいのソファーに座って下さい。」
「いいじゃねぇか、減るもんじゃあるまいし。」
俺の隣に。
「馬鹿言わないで下さい。
俺の気分が滅入ります。」
極力目を合わせないよう、ただカップで水面を作る紅茶を見つめる。
それが面白くなかったのか、ナルシストは突然俺の腰に手を回した。
(マズい…ッ)
カップ半分ほど注がれていた紅茶はワイシャツに染みを作り、反射的に俺はカップから手を離した。
「あ…っつ…!」
しくじった。
火傷したかもしれない。
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