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「…はい?」
「だから、なんでハヤブッチョを殴るなり蹴るなりしなかったのよ?
強気な準くんならやれそうっしょー」
うんうんと一人で頷く青柳先輩は、どうやら本当に不思議だったらしい。
「いや、一応先輩ですし…」
「そーぉ?
結構容赦ない感じするけど~」
俺は一体どう見えるんですか。
ていうか、『一応』って…否定してあげて下さいよ。
「…隼先輩に手を出したとして何になるんですか。
抵抗してみたところ、力は格段にあっちのほうが優勢でしたし…
それに、もし殴れたとしても、後輩に殴られただなんてあの人のプライド傷つけるだけ。
目の敵にされるだなんて、とんでもない。」
「穏便に終えたかっただけですよ、俺は。」
「…ふーん」
そこで気付いた。
青柳先輩の様子がおかしい。
さっきのヘラヘラした口元が、一の字を作っていた。
「…それってさぁー、要するに面倒くさかったってこと?」
…なんてこった。
なかなかこの人、侮れない。
「…さぁ、どうなんでしょ。
あ、これ隼先輩に渡しておいて下さい。
それじゃ。」
…パタン
これ以上は時間の無駄。
根掘り葉掘りの質問で、禄な会話にもならないだろう。
俺は先輩に背中を向けて部屋を出た。
ガチャッ
「ジュンジューン、また来てねーぇ」
…パタン
………ジュンジュンって、俺…?
ふざけたネーミングセンスに、俺はパンダかと一人ごちながら長い廊下を歩いた。
このとき俺は重大なミスを犯していた。
そう、忘れていたのだ。
鍵を返したところで、俺の個人情報はまだヤツの手にあることを。
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