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「…………………」
少年はピクリとも動かず、俯いているため表情を読み取ることは出来ない。
だが…
「(…なんだ?)」
ギメルは感じ取っていた。
少年から漂う異様な空気を…。
それはクロメルも感じたのか、彼は徐<オモムロ>に腰に差してある剣の柄を握った。
「リナス…彼は?」
一方のティアリスは訝しげな表情を少年を向けながらリナスに問う。
「わかりません。
ですが、ただの一般人ではないかと…。」
「そうですか…。」
歯切れの悪いリナスの答えにティアリスの表情は険しさを増す。
「確かに一般人ではねぇよな」
それに賛同するようにクロメルは頷くと、柄を握る力を強める。
その時だった。
今まで微動だにもしなかった少年が不意に顔を上げたのだ。
「…なん…だッ…」
ただ、目が合っただけ…いや、その瞳を見ただけと言った方が正確だろう。
たったそれだけで、彼等はまるで金縛りにあったかのように、その場から動けなくなった。
由しと考えられるものがあるとすれば、それは少年の瞳…。
以前は蒼色だっただろう、その瞳は今や淀<ヨド>んだ色彩に塗<マミ>れ、嘗<カツ>ての面影はない。
その瞳に捕らわれた者は思考さえも凍らされてしまう、それほど彼の瞳は冷たく、冷然として彼等を見据えていた。
静かだった森は異客を戒めるかの如く騒<ザワ>めき、大地を震わせる。
誰もが底知れぬ威<イ>に畏怖を感じていた。
一人を例外として…。
「(ようやく出てきたか…)」
ジェイク…。
彼一人だけは少年を恐れることなく、寧ろ歓喜に満ち足りた瞳を少年に向けていた。
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