平行線の向こう側

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僕は沙夜が時折、羨ましかった。そして、沙夜も同じように僕を羨ましいと言った。 「叶夢(かなめ)ってさ。いいよね」 「なにが?」 「だって、自分を持っているから」 「……自分を持っているのがなんで、いいの?」 「自分を見失わないじゃん。辛さを乗り越える強さがある」 「持ち過ぎるというのも問題だけどな」 「どうして?」 「まあ、いろいろとさ……。どっちにしろ、沙夜は沙夜のままでいいじゃん」 「でも、私は相手に染まりすぎるから……きっと、弱いんだろうね。すぐ人を好きになって夢中になりすぎるし、それでいて自分が愛されてないと一方的に不安になるし、騙されていることも全然気付かないでいる。彰も同じだったし」 と、沙夜はうじうじと愚痴ぎみな口調になり、目尻に薄く涙を溜めている。
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