平行線の向こう側

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「誰かに愛されていないと凄く不安になるの。寂しくて」 静かに微笑んで、沙夜はいつもそう口にしていた。 わかる気がする。 でも、僕は常に「わからないね」と、彼女の言葉をいつも否定し続けていた。 それは別に僕がひねくれているわけでも、沙夜を嫌いなわけでもない。 ただ、認めるのが恐いのだ。 内心は誰よりも人の愛情を求めている僕が、表面上に寂しさをあらわにしてしまえば、間違いなく僕は欝になってしまう。 だから、僕はいつも頑固になって二言目には正論を口にする。 しかし、優しさだけでは人を救えないように、正論だけを口にしても、誰も人の心を救えたりはしない。 なにが正しくて、なにが間違っているかなんて、そんなこと誰だって知っている。それを受け入れる力や、引き離す強さがないから、人の悩みは尽きることがないのだ。 誰もが人に愛される優しさを持っている中で、優しさの欠片もない僕が持っているものは頑固さや、強がりを口にするという、とてもくだらないものだった。本当は人の価値観だって理解しているのに、いつだって目を逸らすことばかりしてきた。 本当なら僕にだって抱きしめたいとか、受け入れたいとか、そういった感情は何度も経験があった。 でも、それができなかったのは……自分が受け入れた時に、相手が同じように自分を受け入れてくれるとは限らないという現実を知ってしまったからだ。
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