平行線の向こう側

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でも、最近になって一つだけわかったことがある。 それは僕が二十歳になる誕生日の時だ。 珍しく親友が僕にバースディプレゼントをくれた。本当はお互いにプレゼントなんて渡す柄ではないのだが、遊んだ日の帰り、いきなり親友が「はい。忘れてたけど、これ。誕生日プレゼント」と投げてよこされたのは、黒と白二つの絵具チューブだった。 そして、帰る際の会話に親友は僕に言うのだ。 「お前はもう今日から、黒も卒業だな。今まで、たくさん、たくさん、辛い思いしてたけどさ。よく頑張ったなと思う」 「どういうこと?」  僕は一瞬、親友の言っている言葉の意味がわからなかった。卒業ってなんだろう? そもそも、僕が黒じゃなかったら、何色になれというのだ? どの色にも染まれないのに……いっそのこと、無色になれとでもいうのだろうか? ぼんやりとチューブを見つめていると、親友は優しく僕の肩に手をかけて笑う。 「だからさ、絶対に沙夜ちゃんを好きだった時間を無駄なんて思うなよ。むしろ、彼女のおかげでお前はもう、人を受け入れる優しさだって手にいれたんだから。知らずの内に、お前は他の色に染まったんだ」 「他の色?」「そう。だから、明日からお前は違う色の叶夢な! はい、決まり。じゃあ、また明日学校で」 親友は拳で僕の胸を軽く叩くと、そのままいつもの笑顔で帰ってしまった。 なんと強引な……しかし、他の色って、何色なの? という疑問を抱え、僕は渡された二つのチューブをジッと見つめていた。
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