誓約書

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何故だかムショーにそれを破りたい衝動に駆られた。 一番下には真祐の署名がしてある。その隣に私の名前を入れろということだろう。 「暇人」 ボソ、と悪態をついてやる。 「暇人でけっこう。バカ西の定時だぜ?あ、ココに署名して」 そこまで本格的にやるのか、と思わず苦笑い。 一文字ずつ丁寧に、今まで書いたことがないぐらい丁寧な文字で書いた。 「これで本当に契約完了だな」 真祐はそう言うとクリアファイルにその書類を入れ、引き出しの中にしまった。 真祐はベッドにぽふ、と腰掛ける。 「ていうか、私死ぬ予定ないんだけど」 書類には私か真祐のどちらか、もしくは両方が死んだときと書いてあった。 生憎だが私は健康だ。貧血もちと足が少し悪いって事以外は。 まぁ、実生活に支障は出ないからこれはこの際おいといて。 「おいおい、この物騒な世の中、いつ誰が死ぬなんてわかんないんだぜ? もしかしたらココに隕石が落ちてきて死ぬかもしれない。 もしかしたら若奈は明日交通事故にあって死ぬかもしれない。 そういう可能性が0だと、誰が言い切れる?」 真祐は自殺願望の強い人間だった。(私の知らない空白の期間のうちに彼がそのままならば) こういう捻くれたことを考えるのはきっとそのせいだろう。 「ぶっそうなこというな。真祐の思考ってどこかぶっ飛んでるよ」 確かに0じゃないかもしれないが、確率は確実に0に近い。 ふと真祐の鎖骨あたりに目が行く。 真祐の身体を思いっきり押し倒す。真祐の足が浮かんだ。 「ちょ――おれたちまだそういうことは早いって――」 何バカなこと言ってやがる。あほか。 ボタンを引きちぎる勢いで真祐の胸板をはだけさせる。 ウホッ、いい胸板――って違う! 今真祐のお母さんが入ってこられたら困る。すごく。 入ってきませんようにと心から祈った。 「なんだよ。これ」
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