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その言葉が波紋のように私の頭に響き渡った。
「どうして、真祐がっ――」
室内なのに雨が降ってきた。おかしいな。
真祐の白い胸板に水が滴り落ち、そのまま少しずつ広がっていく。
ああ、私泣いてるんだ。悲しくはない。切ないほど愛しくて。
「……」
真祐は何も言わなかった。
私も何もいえなかった。たくさんいいたいことがあるのに、いえなかった。
口をあけても紡ぎだす言葉が見つからない。どうして。どうして。ただそれ以外言葉として意味を成しそうにない。
長いようで、短い時間が流れた。
それは一時間だったかもしれないし、一秒に満たない時間だったのかもしれない。
ただ、私にとって何よりも愛しくて、切ない時間。
私は真祐の胸板に涙を落とすことしかできなかった。
「若奈」
突然、真祐が私をぐいと自分の胸板に押し付けた。
くすぐったい響き。
こんなにも真祐に名前を呼ばれることが愛しいことなんて思わなかった。
「おれ、バカ西に通うぐらいバカだけど――」
真祐の声が頭の中に響き渡る。
心地よい声、だいすきだと思っていた声。
日高とは、違う声。
「でも、目の前で女が泣いてたら慰めてあげたいって思うよ」
「ばか」
ただ一言だけ呟いて、私は自分の顔を真祐の胸板に押し付けた。
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