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「あ、若奈早いなー」
負けた。十分前に着たのに。何が“早いな”だ。
こんな田舎の駅でも休日のこの時間帯は人でごった返していて、乗りたい気持ちが奪われていくような気がする。
休日なのに出勤する会社員、部活にいくのだろうか同年代のジャージ姿の学生、旅行ルックな老夫婦……――。
そんな中でも真祐は一際目立っているように感じた。
やはりこれは、私が“恋人”だから感じるものなのだろうか。
「真祐の方が早いじゃん」
少しだけドキドキしている自分がいる。
真祐は黒のボタンジャケット、白のTシャツ、ダメージの入っているデニム。そしてくしゅくしゅっとしたグレーのおしゃれマフラー。
サロン系、というヤツだろうか。
生憎ファッションにはあまり詳しくないのでよく分からない。
対する私は白のハイネックセーターにマフラー、Gパンだ。
ショートパンツにしようと思ったが、今日はクソがつくほど寒い。
だからGパンにした。寒さには勝てない。ついでにいうと私は極度の寒がりだ。
「ねえ、ドコ行くの?」
「映画。無難だろ?」
映画、その響きに少しだけわくわくした。
映画館に行くのなんてかなり久しぶりだ。
「ん」真祐が私の手を掴むと無理やり歩き出した。
真祐と手を繋いでる、それは私の頬を赤くさせるには十分すぎる威力があった。
頬が熱い、絶対に真っ赤だ。恥ずかしい。
真祐は電車の料金表を眺めていた。
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