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沖縄で二人一部屋のホテルに泊まったとき。
私は彼の腕にすっぽりと収まりながら、静かにそれを聞いていたのだ。
『すぐえっちして、相手が死んで、それが純愛ならおれたちも純愛だな』
と優しい微笑で。
ユーモアを感じさせる目は始めてあったときから変わらなくて。
あの日もいつもと同じユーモアを感じさせるらんらんとした目だった。
その目を見ていると、なんだか永久にずっと一緒に居られるような気さえしてきて。
そんな目を私はだいすきだった。
『そんな純愛だったら、私は要らないよ』
真祐は死ぬのだ。もうすぐ。
いや、真祐が死ぬのは“すぐ”とはいいきれない。
“いつ死んでもおかしくない”状態なのだから。
だからもしかしたら“その日”が訪れるのは一ヵ月後かもしれない、一年後かもしれない。五年後かもしれない……――
奇跡が起きたら十年後もしぶとく生きているかもしれない。
でも、確実に暗くて重い“死”というものは不愉快なほど大きく足音を立てて彼に迫ってきていた。
日に日に多くなる薬の量がそれを示していた。
『純愛なんかじゃなくていいから、そばにいてよ』
私は 迷いもなく 言った。
真祐はその言葉に少し困った顔をして、私を強く強く抱きしめた。
『ごめんな、その約束は果たせそうにない。でも……――』
真祐は言葉を捜すように視線を宙に上げた。
そこにあるのは少しくすんだ白と電球。
『今、おれ幸せだから許してよ』
彼の言葉に迷いはない気がした。(そう、あくまで気だけ)
彼は、幸せだったのだろうか。
そしてこのお話は“純愛”になってしまうのだろうか。
皆様が読んで、涙を流す“純愛”というヤツに。
純愛なんて綺麗な恋愛じゃないことを私はただ祈るばかり。
(だって、真祐にも私にも“綺麗”なんて言葉は似合わない)
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