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煉は目をこすり、もう一度テレビの端っこに写っている時刻を凝視する。
そして、段々と青ざめていく表情と共に先程の少女の話が何一つ間違っていないことにようやく気付く。
「あぁ……うわぁ…… 遅刻だぁ!」
頭がパニックになり意味もなく辺りをキョロキョロと見回し、慌てて朝食を食べ終えて、制服に着替えカバンを持ち、直ぐさま家から飛び出す。
そして、鍵の閉め忘れに気づき一旦戻ってから再び学校へと向かった。
現在、煉は学校まで走っている最中である。
住宅街を駆け抜け、運が悪いことに信号は全て赤。
「はぁ! はぁ! なんで赤ばっかりなんだ! このままじゃ遅刻だ!」
走りながらポケットに手を伸ばし携帯を取り出す。
時刻は八時二十九分。
校門はまだちらりとも見えない。
その時……
「君は何を急いでいる?」
「!?」
不思議と立ち止まってしまうような澄んだ声が背後から聞こえてきて、煉は立ち止まって振り返る。
しかしそこに煉を呼び止めた人物はいない。
「気のせい……かな」
「どこを見ているのだ? 拙者は下だぞ?」
煉は言われた通り下を見ると、不気味な程真っ黒な猫が煉を見上げていた。
「え? 猫……?」
突然の出来事に、煉はポカンと口を開け黒猫を見つめる。
「この世界の人間は、拙者が喋るのがそんなに珍しいのか?」
再び黒猫から聞こえてきた声により、煉は現実に引き戻された。
そして遅刻のことを思い出す。
「何やってんだ、僕は! 喋るおもちゃに構ってる暇なんてないじゃないか!!」
そう言って、煉は踵を返し走り出し学校へと向かう。
「ぬお、待ってくれ!
行ってしまったか……しかし、拙者の言葉が分かるということは彼が選ばれた人間なのだろうか」
黒猫はそう呟くと、煉が走って行った方にゆっくりと歩き出した。
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