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「何すっとぼけたこと抜かしてんのよ。――あんたの恋人の月影深澄さまです」
「すぅ……すぅ……」
「って寝るなぁぁ!もう十時だよっ!!起ーきーなーさーいっ」
呼びかけも虚しく、彼が目を覚まして身体を起こしたのはそれから約四十分後だった。
「……で、何で私があんたの服装を整えなきゃなんないのかしら」
少年のストライプのワイシャツに巻かれた黒いネクタイを結びながら、深澄がぼやく。
「曲がってるからキチンと直せって言って、結果結び直してるのは深澄さんでしょう?」
「むう……それはそうなんだけど。よし、できた」
少年の胸元から手を離し、深澄が誇らしげに言う。
「ありがとうございます」
「いえいえ。にしても、朝から起こしに来たりして……これじゃあ私、皆守くんの召し使いみたいだね」
冗談混じりに彼女が笑うと、ベッドに腰掛けて微笑んでいる童顔美少年……千郷はにっこり、
「違いますよ、深澄さんは召し使いじゃなくて奴隷です」
ひどく爽やかな笑顔で、そんな言葉を吐き捨てた。
「……それ、冗談だよね……?」
硬直しながら引きつった顔で、たった今奴隷と呼ばれた少女が返した。
さあ?と千郷は笑い、ベッドから腰を上げる。それからドアへの方へ数歩近付くと、くるっと振り返って深澄に言った。
「じゃ、もうお昼だし行きましょうか。ついでに深澄さん、コンビニでパン買ってきて下さい」
※訂正
この少年、皆守千郷(ミナモリチサト)は童顔美少年などという優しいものではなく、外国製人形のように可愛く麗しい風貌をしながら、中身は超腹黒いという童顔腹黒最強少年だ。
「何で私が」
「僕、お腹ぺこぺこで動けません……ダメ……ですか……?」
まさに『しゅん……』という効果音がぴったりだろう。
千郷は悲しそうに眉を寄せ、世界中のおばさまを虜にしそうなおねだり顔で深澄を見上げた。
深澄は近くのコンビニエンスストアであんパンを購入した。
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