いち

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 家を出てから約5時間後、明良は小さな無人駅に立っていた。駅員もいなければ、明良と一緒に下車する人もいなかった。 「うわ~、全然覚えてないや」  明良が祖父の家に来たのは小学生の頃のみ。目の前に広がるのは、全く見覚えのない景色だった。  とりあえず通りすがりの人に道を聞く事にした。 「すみません、この辺りに高埜って家、ありますか?」  明良が話し掛けたのは、農作業姿で皺だらけのお爺さんだった。お爺さんは、殆ど歯が抜け落ちた口をかぱっ、と開けて、 「タカノ、タカノ……。  おぉっ、しょうじのことかえ?  そういえば、昭治の若い頃によぉ似とるのぉ」  『昭治』とは、明良の爺ちゃんの名前だった。  お爺さんが言うには、ここから東の方に山があって、その山を少し登らなくてはならないらしい。お爺さんの指差す山を眺め、少し気分が萎えた。その山が遥か遠くに見えたからだ。  お礼を言おうと山から目を戻すと、お爺さんは既に田圃の方に向かっていた。  明良は荷物を持ち直し、教えられた道を歩き出した。 .
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