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容赦ない太陽の日射しと、遠慮のない蝉の鳴き声が、躰から体力を奪っていく。
歩けば歩くほど、どんどん緑は増えていき、道は悪くなる一方だった。でも、明良の気分は妙にスッキリしていた。不慣れな土地に集中することで、日常の煩わしいことを思い出さずに済むからだ。
こっちに着いてから、もう1時間近く歩いただろうか。明良は側の樹木の根元に腰を下ろし、日陰で休憩を取ることにした。
鞄からミネラルウォーターを取り出し、喉を鳴らして飲む。喉仏が上下する喉元には、幾筋も汗が流れている。
ぐい、と手の甲で汗を拭った。
気持ちの良い風が首筋を撫でていく。
聞こえてくるのは、蝉の鳴き声と木の葉や草の揺れる音だけだった。
10分ほど休憩を取った明良は、鞄を掴んで立ち上がった。すると、目の前を白い鷹が音も無く横切った。その鷹は、今まで明良が座っていた処の樹木にとまり、こちらをじっと見ている。
「……凄い、こんな真っ白な鷹、初めて見た。
……お前、この辺に住んでるのか?」
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