どん底気分

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その日から、夜勤後には必ずA子の病室に通っていた。 ただ… 気になる事が一つ出来ていた。 至って普通なのだ。 A子は多少、弱っているだけで…会話は今の所はまともにキャッチボール出来ているし… 俺がいる間は、興奮状態になったり、急に錯乱したりはしていない… なのに、何故…退院の許可が降りていないのか? 初めて病院でA子を見た時よりは、多少だが、血色も良くなっているし、頬もそこまでこけていない… 次、偉そうな医者が来たら聞いてみよう…そう思っていた。 A子との日常の会話の中で、ある日A子がこんな事を言った。 「あたし、病院を退院したら、泰平にお願いがあるんだ。」 「ん?なに?」 「その為には、ちょっと頑張らないとダメだけどいい?」 珍しく無邪気な笑顔を見せていたので、断れなかった。 「いいよ。言ってみ?」 「あたし免許ないでしょ?」 「うん。そういや、金持ってんのに車持ってないなぁ~とは思ってた。」 「だから、あたしが入院してる間に、泰平免許取って、あたしをドライブに連れてって?」 そういや…免許…取れる歳になってたんだった。 この時、俺は21歳。 俺は16~17の時、バイクの無免許、窃盗で三度程逮捕されていた。 三度目の時、家庭裁判所のオッサンに言われたのが、18になっても、3年間は免許証交付出来ないって事だった。 簡単に言うと、21歳まで免許証は交付しないって事だったのだ。 「ドライブぐらいいいよ?でも…流石に、退院までに車買うぐらいの金は貯まらんかな……」 「車はレンタルしたらいいじゃん。泰平が頑張るのは、自動車学校代金。それに働きながら自動車学校行くんだから、キツイよ~?」 そう言われりゃ、そうだ… 夜勤後に、運転に勉強… かなりハードだな…
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