変わらない青空

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「これですか。これは――」 「瑞希!」 そう言って背を見せようとした瑞希の名を、何者かが呼ぶ。 瑞希は即座に呼ばれた方を向く。それを目で追う、慧と咲。 そこには黒光りする、如何にも高級感溢れる車を背にした、青年が居た。 「ちっ、全くしょうがないですね……」 瑞希はそう呟くなり、Tシャツを身に纏い、慧達の方を向く。 「今日は楽しかったです。迎えが来たんで、帰るとするです」 瑞希は、慧達に蔓延の笑みを浮かべながら話すと、弟の手を引き青年の元へと歩き出す。 「あ、おい!」 「運が良ければ――きっと、また会えるです」 瑞希を呼び止めようとする慧に、瑞希は、さも何かを知っているかのように言い切る。首を傾げる咲に、モヤモヤ感が胸中を渦巻く慧。瑞希はそんな二人に手を振り歩き出す。 「ったく、何なんだ?」 「いいじゃない、慧。ほら私達も帰ろう?」 少し言葉が荒くなる慧を咲は見事に宥め、瑞希とは逆の方向に歩き出す。 帰る慧達を、青年と合流した瑞希は、不適な笑みを浮かべながら見つめていた。 「瑞希、誰だあいつは」 そんな瑞希に、青年が訊ねる。 「なかなか面白い…次のターゲットです」 「あんな大学生じゃ、つまらないもんね」 淡々と答える瑞希に、先程からずっと黙っていた瑞希の弟が口を開く。 「学校は分かってるのか…?」 「あれを知らないですか。あれは、今年全国を制した聖城高校のキャプテン、神藤 慧ですよ」 その瑞希の言葉を聞き、ニヤリと笑う青年。 「確かに、面白そうだ」 そう言いながら、車の運転席に乗り込む。続けて他の席に瑞希とその弟が乗り込むなり、車を走らせる。 ジーニアスBB――通称天才バスケットボーラー。 彼女らの登場が、後に聖城を…いや、聖城筆頭とした実力派バスケットマンを苦しめることになるとは、今は誰も知らなかった。
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