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「橘…瑞希か」
「もうっ、他の女のことなんて考えて!」
瑞希の名を呟く慧の腕を、咲は頬を膨らませながらど突く。
しかし容姿端麗な咲。頬を膨らませても、慧に微笑されてしまう。
「な、何よぉ…」
「いやー、可愛いなって…」
平然と言い切る慧の頬は、恥ずかしさを隠しているのか、少し赤みを帯びていく。
同時に、咲の頬も。
「言ってて恥ずかしくないの?」
「な…は、恥ずかしくねーよ!」
小悪魔の仮面を被った咲の訊いに、慌てふためきながら部屋へと走る慧を、咲は微笑しながら見つめていた。
部屋に戻るなり、豪華な夕食が慧達を迎える。咲は嬉しそうに、慧は恥ずかしそうに食べ始めると不意に咲が口を開く。
「何か、嫌な予感がするの…」
「ん? どうしてだよ」
表情を曇らせる咲に、慧は心配そうな表情をしながら訊ねる。
「何か…うん、何か…」
こんなにも不安定な咲を見るのは、久方振りな慧。問い詰めても仕方ないと思ったのか、立ち上がり咲の頭を撫でる。
「俺なら、大丈夫だ」
そう言い、微笑む。
咲は頷くなり、作り笑いか――慧に微笑み返すと、夕食を口に頬張る。
『橘――瑞希…』
咲の心配の種は、きっと瑞希のことだろう。慧はそう解釈すると、席に戻って食事を続ける。
その後、土曜日の帰る時間になるまで、二人がはしゃぎ続けたのは言うまでもない。
――橘 瑞希。
――謎の青年。
不可解な者を胸中に残したものの、楽しんだ二人は、空港へと向かう。
「明日だよね、試合」
不意の咲の訊いに、慧は、さも今思い出したかのような反応を見せる。
「…忘れてたの?」
「ああ、忘れてた…」
そんな慧に微笑する咲。慧は、慌てながらメールの入った携帯を開く。
「あ、明日だ。相手は明昭高校だってさ」
「聞いたことあるよ。神奈川の高校で、二年生五人のチームらしいよ」
どこか抜けている咲でも、こういう場ではしっかりしているのか、明照高校のチーム構成をスラスラ話していく。
「楽しみだ……」
全国大会終了後、慧はバスケから離れていたためか、試合が楽しみだと呟く。
そんな心境の元、慧達は青空を飛んでいく。
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