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「――着いた」
空港の出口にて、清々しく口を開く慧。咲の荷物を持ちながらも、涼しげな表情をしている。
「慧、タクシー呼んだよ!」
遠方では咲がタクシーを呼び止め、呼び止めるなり慧を呼ぶ。
二人はタクシーに乗り込み、行き先を神奈川県聖城高校前にするなり寝入ってしまう。
大人顔負けの容姿に、考えも幼稚とは言えない二人。
そんな二人の無邪気な寝顔は、まだ高校生らしさを醸し出している。
時は流れ――…数時間後。
「着きましたよ、お客さん」
運転手に揺すられ、二人は同時に目を覚ます。
代金を支払うと、二人はタクシーから降り、そのまま聖城高校の門の前にて立ち尽くす。タクシーが去る音が、何とも侘びしい空気を醸し出す。
「帰る――か?」
「うん!」
少し聖城高校に寄って行きたい思いがあった慧だが、咲の疲れた表情を確認するなり、普段聖城高校の生徒として登下校を繰り返す道のりを歩き出す。
「おー、神藤じゃないか!」
そんな二人の後方。懐かしさを覚える声が、慧の名を呼ぶ。
「あ、三浦先輩」
振り返り、夕日をバックにして慧達に近付いてくる者を、目を細めながら確認する。それが三浦だと分かるなり、慧達も三浦に近付いていく。
かつて聖城高校が偉業を成し遂げた際、そのトップにいた男と、今年その偉業を続けて成し遂げた際トップにいた男は、今対面する。
「今、帰ってきたのかい?」
相変わらず優しそうな表情で、慧の持つ荷物を見るなり訊ねる三浦。
頷く慧に微笑む咲を交え、少しばかり会話を交わす三人。
「俺、そろそろ行くな」
今は大学生の三浦。決して忙しくない訳ではない。歩き出す三浦に咲が頭を下げた瞬間、慧が口を開く。
「明日試合あるんですよ。九時から、ここで。良かったら秋田先輩も誘って見に来て下さい」
三浦は少しばかり難しい表情をするが、次に微笑むなりまた歩き出す。
「よし、帰るか!」
三浦が去った後、直ぐに歩き出す慧と咲。
あの日以来咲の家には、母親である遥が帰ってきたためか、慧の家に咲が泊まることは少ない。
「じゃあ……ね?」
名残惜しそうにする咲に、微笑しながら手を振りエレベーターに乗り込む。
明日の準備やら何やらしていく内に、慧の意識は不意に途切れる。
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