変わらない青空

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「ほらぁ、慧起きて!」 肌が暑さを完治する。それと共に聴覚は間延びた声に刺激され、いつの間にか慧の瞼は開いていた。 「咲……今何時?」 朝から咲が自分の部屋に居ることなど、慧からしてみれば珍しくないのか、今の時刻を訊ねる。 「うーんと…八時!」 最初は難しい表情をする咲だが、次にはその表情を笑顔に変え言い切る。 「やばっ! 咲用意は!?」 「もー、終わってるよぉ」 慌てる慧は、咲の服装と手に持った荷物を見るなり、更に慌てる。咲の服装は聖城高校の制服。マネージャーは、基本的冬にならない限り統一されたジャージを着ることはないので、夏場は制服を着用しているのだ。 「これと、これ…あと――」 「慧、行くよ?」 着替え、朝食、準備に時間を掛け早四十分。最後の確認をする慧を、咲の声が呼ぶ。 「あ、ちょっと待った!!」 「もー、何よぉ」 いきなり大声を発する慧。家には幸運なことに、姉の神藤 香(しんどう かおり)の姿はなく、苦笑する神藤 由美(しんどう ゆみ)の姿だけがあった。 因みに、父親である神藤 亮(しんどう とおる)は、一家の大黒柱らしく大企業の中心人物として海外に飛んでいる。 「あった――!!」 ドタドタと玄関に走る慧を、咲は驚いた表情で見る。 「ど、どうしたの?」 「これだよ、これ!!」 慧の手に握られているのは、黒いリストバンド。 咲は、握られたリストバンドに施された、白い刺繍を見るなり微笑む。 どこか――懐かしげに。 そこにはK・SAWADAとの英語。 沢田 健夜(さわだ けんや)。今から五年前、慧の相棒としてバスケ界に、足を着かせていた男の名である。 交通事故をきっかけに、この世を去った健夜。そんな健夜は、死ぬ間際にこんな言葉を残していた。 「俺達が…日本一」 慧は、リストバンドを見つめながら呟くと、咲の手を取り、勢い良く外へと飛び出していく。 「行ってらっしゃーい……」 神藤家には、由美の声が虚しく響き渡っていた。
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