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「咲、乗れ!!」
荷物を手にした咲に、慧は強く言い放つと、咲を自転車の後ろに乗せ、自転車を聖城高校へと飛ばして行く。
その頃聖城高校。
「遅ぇ……」
慧と咲以外のバスケ部員が揃った、聖城男子バスケ部。体育館にて、慧達の到着を待つ部員の中で、蓮が不機嫌そうに呟く。
「なー、高城本当に……」
「来るわよ?」
新城の質問を最後まで聞かずに、結衣は微笑みながら答える。
以前には窺えなかった、結衣のお嬢様口調。今となっては家系から来てるのか、そんな口調までもが普通になっている。
「あ、あーなら良いんだけど…」
引きつった表情の新城。
「何よ、その引きつった顔」
「い、いや別に……」
言いながらも後退りする新城に気付いたのか、結衣は荷物を投げ捨て新城を追い掛ける。
「たーすーけーてー!! おい蓮、無視すんな!!」
壁に追いやられた新城を、部員達は笑いながら見つめる。
後に新城の声が断末魔となって聞こえたのは、言うまでもない。
「全く…仕方ないわね」
両手を組み、上に伸びをする結衣を余所に、不意に体育館の入り口付近から声が響き渡る。
「完璧な遅刻じゃねーかよ!」
「何よ、慧が寝坊したんじゃん!」
言い争う声は、体育館に居るメンバー達に、段々と近付いてくる。
「大体二人乗りなんてするから、遅れんだよ!」
「あー、それ太ったって言いたい訳!?」
どこぞの人間が、バスケットボール選手の憧れとも言える男と、その彼女がレベルの低い話をしていると想像しただろうか。
メンバー達が苦笑していると、慧と咲は言い合いながら、体育館に足を踏み入れる。
「太った? あー、最近食い過ぎだよ! 少しは走れば良かったのにな!」
「なー!? 慧だって、遅刻しそうだから私に手伝ってーとか、泣きそうな顔してきたじゃん!」
「あの――慧、咲?」
二人の言い合いが留まることを知らないので、龍斗が止めに入る。
「お前ら、最後だぞ?」
苦笑する龍斗に、慧と咲は辺りを見回す。そこには若干引き気味のメンバーと、苦笑した様子の三年メンバー。
その実態に、慧と咲は顔を赤くして俯く。
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