699人が本棚に入れています
本棚に追加
――一年前。
高校バスケ界に、新たな伝説が生まれた。
地区予選初戦敗退校が、僅か一年で――…全国大会優勝。
「今年も……」
「……日本一だ」
少年は空を見上げながら呟くと、手にしたバスケットボールを指の上で回す。
吹き抜ける風。
まるで、約束を守り抜いた少年を称えるかの如く、優しく――優しく。
「ほらぁ、行くよ?」
間延びた声。
聞いただけで癒されそうなその声は、確実に少年のことを呼ぶ。
少年は傍にあるゴールを直視するなり、膝を曲げ――端正なシュートフォームから、ボールに回転を掛けて打ち出す。
「――入った」
少年が呟くと、そのボールはゴールに向かっての弾道を綺麗に辿ると、ネットを大きく揺らし、辺りには乾いた空気を潤す音が響き渡る。
「ほら、ってば!」
「いってー!」
少女は頬を赤らめながら、少年の背を押す。
「えへへ…行くよ?」
少年の首から手を回した少女は、少年の目を見ながら訊ねる。
少年は恥ずかしさからか、空を見上げると、「おう」と返し歩き出す。
まだとある夏の日。
一年前と比べて伸びた髪を風に乗せるなり、見慣れた街頭を歩き出す。
「元気か――健夜…」
一言口にする。
二人並んで歩くその背は、多くの何かを背負っているようにも見える。
少女は少年の手と自らの手を絡ませるなり、不意に微笑む。
「きっと元気だよ!」
「――ははっ、だよな」
終わらない疾走。
少年と少女は、その延々と続いていく道を歩いていく。
最初のコメントを投稿しよう!