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聖城がアップをしている中、明昭の控え室ではシンの元気のある声が響き渡っていた。
「なぁなぁ、俺柊 蓮に話し掛けちゃったよ」
練習試合なのだから当たり前だろうと、誰もが突っ込みたい衝動を押さえ込み、チビが口を開く。
「俺なんて噛んじゃったよ…」
未だに気にしているのか、少しばかりボリュームの低い声で話し出す。
「こっちまで聞こえましたよ」
物静かそうなナオ。そんなナオが、微笑しながらチビに返す。
「でも、皆良い人達だよね」
少しばかり賑やかになってくる明昭の控え室。タクは、純希と打ち解けたからか、少しばかりニヤニヤしながら口を開く。
それに頷くカケル含んだメンバー。カケルは、会話に参加していないからか、既に用意は終わっていた。ここで、カケルが初めて口を開く。
「皆、上手く打ち解けられた?」
微笑みながら訊ねるカケルに、誰もが頷く。
――上手く。
これは、聖城高校に着く前にカケルがタク達に提案したものであった。
「何か、嘘みたいに緊張がほぐれたよ」
今から一時間前。あるバスの中でカケルが口を開いていた。
「いい? 聖城の人達とは、なるべく話すようにするんだ」
既にガチガチのメンバーに、カケルの言葉が矢のように突き刺さる。
「で、でも…何で?」
チビが露骨に不安そうな表情をしながら、前に座るカケルに訊ねる。
「それは――」
「どう? 直接あの人達の情報を知る前と後じゃ、気が楽になったでしょ」
まるでカケルの言葉に操られているかのように、頷く四人。
『凄いな……流石カケル先輩』
マネージャーである遥も、可愛らしい表情を驚きの色に変えていた。
これは人間の心理と言うものなのか、勝負事に於いて、敵である相手と会話を交わすと緊張感がほぐれるとのアンケート結果まで出ているのだ。
そんなこんなで、笑いも増えてきた明昭メンバーが会話を交わしていると、不意に控え室の扉が開く。
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