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「あ、酒井先生」
少しばかりホッとした様子で、口を開くのはチビ。
「何だいチビ、緊張してるのかい?」
入って来るなり早々、酒井はチビの核心を突く。
緊張がほぐれたとは言え、相手は日本一。完璧に緊張の文字が消えた訳ではない。
「見てきたよ。聖城高校のプレー……」
珍しく控えめな発言の酒井。言葉に勢いが感じられない。
その様子に、控え室内の誰もが息を飲む。
「どうだったんですか?」
皆が皆緊張している中、カケルが代表して酒井に訊ねる。
「やばかったね、うん、やばかった」
その応えに、溜息を吐きながら苦笑するカケル。
「カケル君はどこが、どうやばいのか訊いているのではないですか?」
言い切ってやったとの表情をする酒井に、冷静なナオが口を開く。
そのナオの言葉に、酒井はハッとすると咳払い。次には、目を見開きカケル達五人を見回す。
「試合前に緊張させるようなこと言って悪いけど――…」
「緊張なら、もうしてるぜ!」
そう言いながら厳つい顔を、笑顔でくしゃくしゃにするシン。本当に緊張しているのかと、思わず訊ねたくなる。
「そうかい。じゃあ、言うよ。向こうのキャプテンは段違いだ…カケルで勝てるかどうか…。そして、素人の私から見ても彼らは――…上手いって思ったね」
カケルで勝てるかどうか。この言葉に、カケルは苦笑する。他の四人は明日にでも地球が亡くなってしまいそうな、暗い表情を見せている。
「でも、お前達五人だって負けてないさ! 楽しんで、勝つんだろ?」
不意に明るくなる酒井。そんな酒井を見てか、カケルは立ち上がる。
「皆、聞いてほしい。俺達は聖城高校と比べると、人数だって実力だって天と地の差だ。だけど、負けてない物も持ってる」
いきなり現実を示唆するカケルだが、次には四人の脳内に新たな疑問を作り出す。
――負けてない物。
「ここだ……」
そう言い放つと、カケルは拳を作り、それを胸に当てる。
「諦めない、心」
カケルの真似をする皆を見ながら、微笑するカケルは最後に言い切る。
四人は頷くなり、カケルの周りに集まる。
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