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――明昭ベンチ。
「大丈夫ですかね…あれ」
遥が、若菜の持つボールを見つめながら、監督席に座る酒井に訊ねる。
「大丈夫。あの子達なら、例え相手が日本一でも出来る!」
酒井はそう言うなり、遥に笑って見せる。
その表情からは、まるで怖いもの無しとの感情が、大いに読みとれる。
正に酒井だからこその表情だ。
酒井が遥に笑って見せた頃、最高到達点に達したボールは龍斗に叩かれる。
『読み通り……!』
198の龍斗と、197のナオ。身長差に大差がない二人なら、明昭のメンバーは少しでも勝利を信じる筈。
しかし、明昭のメンバーは龍斗の目の前に位置する蓮寄りにポジションを取る。
「何かあるぞ!」
叫ぶ慧。しかし龍斗が弾いたボールはシンがキャッチ、シンは前に走り出すチビにパスを出す。
しかしチビの隣には純希。
慧の言葉に、上手く反応して見せたのだ。
しかし――…純希とチビの差は開いていく。
「早いぞ!」
ベンチから漏れ出す声。
それは、先頭を走るチビに向けられていた。
固定されたステップ。少し緊張しながらも、チビはカケルに習った通り、ボールをボードに置いてくる感覚で、ボールを手放す。
「やった!」
思わず口を開くのはタク。明昭の奇襲が、チビのレイアップによって成されたことに、感嘆の声が漏れたのだ。
「へぇ、わざわざ蓮に六番(シン)付けて、祐輔フリーにした意味が分かんなかったけど、あれは得点力のある蓮にボールを持たせない為、そして――二人でマークして蓮のコースを無くし、速攻を持ち掛ける為…って訳?」
純希がボールを運ぶ中、慧はカケルに訊ねる。
「流石ですね」
「一種の博打じゃねーか?」
「博打でもしなきゃ、勝てませんからね」
カケルの言葉に、慧の眉が少しだけ動く。
微笑するなりボールを受け取る慧を見ながら、カケルは息を吐く。
『大事なのは…これからだ』
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