変わらない青空

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「よーし、一本!」 日本一の頂点。慧が声を発すると、明昭サイドに流れていた良い空気は、ピンと張り詰める。 それは、明昭メンバーの心境にも影響を齎す。 明昭のディフェンスは、ハーフコートマンツーマン。相手の出方を窺いたい場合には、最適なディフェンスである。 マークはチビが慧、タクが純希、カケルが蓮、シンが月野でナオが龍斗。 「ディナイ!」 何だかんだのチビも、試合ともなれば、冷静さを取り戻したのか声を張り上げる。 低い。オフェンスにとって、これ程の形容詞が当てはまるディフェンダーは、とても厄介なのである。 聖城ポイントガードの慧のマークは、コート上で最も背の低いチビこと、蔵持 宗太。 『抜けねー』 チビとは三十一センチ差の慧。どんなに姿勢を低くしようが、チビより姿勢を低くするのは不可能に近い。 『よし、落ち着いてる!』 日頃からチビ達四人に、ディフェンスの基本を叩き込んできたカケル。慧の少しばかり苦しみを顕わにする表情に、口元が弛む。 「笑ってる余裕……あるのか?」 そんなカケルにマークされている蓮は、カケルの表情が気に入らないのか、訊ねた次には中に切れ込む。 カケルは、答える暇すら無いままに、蓮に付いていく。 普通なら――普通なら、この動作でマークマンを振り切る蓮だが、カケルはそう簡単に行かなかった。 見事、蓮を捉えているのだ。 「蓮!」 中に入った蓮に、慧からパスが出される。無論カットを試みようと、パスコースに手を伸ばすカケルだが、蓮のミートが一歩早かったか、蓮の元にボールは行き渡る。 ――トリプルスレット。 はっきり言うと、この状態の蓮は何をするか分からない。 だからこそ、次に来るパターンが読めない。 以前インターハイの実況者が、こんなことを口にしていた。 「彼程、動きの読めない選手は居ませんからねぇ!」 動きの読めない選手。 そんな蓮が、三つある選択肢の中から選んだのは、ドライブ。
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