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振り切った。
勘違いとは、時に酷なモノ。蓮は幾多の試合の中で、何人もの猛者共をこのドライブで抜き去ってきた。
今回もまた抜けるだろうと、心の端に余裕を作っていたことは、彼自身の秘密である。
しかし風に成りきる蓮の横には、ディフェンスの基礎サイドステップで並ぶカケル。
『――っの!』
踏み切る足に力を入れ、蓮はカケルのマーク付きながら、掌に収めたボールと共に宙に舞う。
勿論、蓮に付いていくほどのカケルが、こんな隙だらけのシュートを易々とさせる筈が無い。
カケルは、即座にシュートコースへと手を伸ばす。蓮はブロックされまいと、空中である程度のフェイクを入れる。が、カケルは引っ掛からない。
表情をしかめる蓮が、最後に取った行動それは、スクープシュート。
蓮の手元から離れたボールは、客観的少し深めにリングへと飛んでいく。
後、ネットでは無くリングが揺れたことは言うまでもなく、ボールは空を仰ぐ。
「「リバウンド!」」
カケルと慧。
双方の声が重なり合うと、ゴール下は異様な空気に包まれる。
そこには鷹の目で、落下してくるボールを睨む四人の姿が窺える。
「ぐっ、コイツ!」
パワーフォワードの役柄に就く月野は、少しばかり早かったシンの反応と、そのガタイの良さに、焦りを感じていた。
隣に一瞬視線を移すが、そこには何とも同等な体をぶつけ合う龍斗とナオの姿。所謂、どっちが勝つか分からないと言えよう。
――取られる。
脳裏をこんな文字が、過ぎる。
しかしその文字は、月野の真後ろから吹き上げる風によって、砂漠の砂の如く崩れ去る。
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