変わらない青空

2/56
前へ
/58ページ
次へ
真夏。とある校舎を、夏の日差しが照らす。その輝きは正に一級品。綺麗とは言えないが、波の音が心地良い海にも、その姿は映し出される。 「あっちぃぞー!」 そんな中、聖城(せいじょう)高校の体育館で、何者かが只でさえ暑いと言うのに、分かり切ったことをわざわざ叫ぶ。 「止めろ、佐神……」 隣に寝ころぶ少年は、無愛想な表情のまま、叫んだ少年の名を呼ぶ。 「もうー、だらしないよ?」 次に、可愛らしい声が体育館の乾きを潤すと、寝転んでいた少年二人は起き上がり、その声の主の周りに集まる。 「おお、結衣」 その声の主とは、高城 結衣(たかぎ ゆい)。あの日から一年。負け知らずな聖城高校は、今年の全国大会――…二冠を手にしていた。 そんな結衣に声を掛けるのは、少し大人びた表情の佐神 龍斗(さがみ りゅうと)。隣に立つのは、心底疲れ切った表情の柊 蓮(ひいらぎ れん)。 「普通、全国大会優勝二日後に、練習なんてするか?」 無愛想に訊ねる蓮に、結衣は悪戯っぽい笑みを浮かべると、蓮の前に立って軽く腹部を殴る。 「喋る元気はあるのね?」 「ご、ごめんなさい…」 一年前の面影はどこに行ったのかと、思わず訊きたくなるが、鬼マネージャーと化した結衣に、部員の誰もが逆らえず、渋々練習に取り掛かる。そこに、今大会優勝の立役者、神藤 慧(しんどう さとる)の姿と、その恋人である香坂 咲(こうさか さき)の姿は見られない。 「はい、集合!!」 相変わらずか、気合いの入った声で集合を促すのは顧問、滝原 綾乃(たきはら あやの)。一斉にダッシュする部員の姿を見る限り、新入部員が多いようで、それぞれが結衣のメニューに苦しんでいることが窺える。 しかし、この聖城高校は、スポーツ推薦を採っていない。故に、ここに集まった新入生は、一から勉強して入学したスタートラインも全て、同じメンバーなのだ。 「日曜日に、試合をするわよ」 疲れ切った表情。まず、その疲労を増幅させたのは、滝原の声。 「あら、嫌そうね?」 部員達から返事はない。それもその通り、全国大会後に練習試合を組む顧問など、普通は居ないのだから。 「あー、じゃあ質問」 龍斗が手を挙げ、滝原の目を見ながら立ち上がる。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

699人が本棚に入れています
本棚に追加