変わらない青空

7/56
前へ
/58ページ
次へ
「もうっ、風邪?」 澄んだ水色が輝かしい海。その浜辺にある椅子にて、華奢な体を寝かせていた少女が体を起こし、何者かに訊ねる。 「ん…ちょっと、くしゃみだ」 訊ねられた少年は、そう答えるなり立ち上がって歩き出す。 ――夕日。 既に夕方だと言うのに、橙色に色付いた太陽は、何ともロマンチックな空気を醸し出す。 「慧――!!!!」 夕日を――いや、空を見上げる少年の名を、少女の声が呼ぶ。少年は振り返るなり、少女の元へ戻る。 「ったく咲は…」 咲と呼ばれた少女は、白いビキニを身に纏い、無邪気な笑顔を浮かべている。 「慧、慧、カニが居た!」 まるで子供。 咲とは香坂 咲。容姿は大人顔負けな咲だが、性格は小学生レベル。そんな咲に苦笑する少年神藤 慧は、咲が指差すカニを見つめていた。 ここは――沖縄。 全国高校バスケットボール大会、またもや有終の美を飾った聖城高校。 一年前、主将に三浦 悠(みうら ゆう)。副主将に秋田 光(あきた ひかる)、そして――エース慧を筆頭に、地区予選から無敗の全国優勝と偉業を成し遂げた聖城。 時は経ち、三年生になった慧達。三浦達が居ない聖城男子バスケ部の主将を、今は慧が勤めているのだ。 しかし去年、彼女である咲と約束した"沖縄旅行"は、あまりの嬉しさからか、慧の頭から離れていた。 勿論呆れられた慧は、必死に頭を下げ、今年連れて行くと約束したのだ。 そのため――今に至る。 「咲…帰ろうよ」 「やだぁ! まだ遊ぼーよ」 そこに座り込み、まるで欲しい物を買ってもらえない幼児のような仕草を見せる咲。慧は髪を掻くなり、何かに気付き歩き出す。 「ちょっと、慧!?」 「何か人が集まってる!」 野次馬と言うのは、こう増えていくのだろうか。慧は、人集りが出来ている場へと足早に駆け出して行く。 「待ってよ!」 もうカニは良いのか、駆け出す慧の背を追う咲。 慧が咲より少し早く人集りに辿り着く。人々が囲んでいる中には、何と驚くことに――…バスケットコート。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

699人が本棚に入れています
本棚に追加