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「もうっ、風邪?」
澄んだ水色が輝かしい海。その浜辺にある椅子にて、華奢な体を寝かせていた少女が体を起こし、何者かに訊ねる。
「ん…ちょっと、くしゃみだ」
訊ねられた少年は、そう答えるなり立ち上がって歩き出す。
――夕日。
既に夕方だと言うのに、橙色に色付いた太陽は、何ともロマンチックな空気を醸し出す。
「慧――!!!!」
夕日を――いや、空を見上げる少年の名を、少女の声が呼ぶ。少年は振り返るなり、少女の元へ戻る。
「ったく咲は…」
咲と呼ばれた少女は、白いビキニを身に纏い、無邪気な笑顔を浮かべている。
「慧、慧、カニが居た!」
まるで子供。
咲とは香坂 咲。容姿は大人顔負けな咲だが、性格は小学生レベル。そんな咲に苦笑する少年神藤 慧は、咲が指差すカニを見つめていた。
ここは――沖縄。
全国高校バスケットボール大会、またもや有終の美を飾った聖城高校。
一年前、主将に三浦 悠(みうら ゆう)。副主将に秋田 光(あきた ひかる)、そして――エース慧を筆頭に、地区予選から無敗の全国優勝と偉業を成し遂げた聖城。
時は経ち、三年生になった慧達。三浦達が居ない聖城男子バスケ部の主将を、今は慧が勤めているのだ。
しかし去年、彼女である咲と約束した"沖縄旅行"は、あまりの嬉しさからか、慧の頭から離れていた。
勿論呆れられた慧は、必死に頭を下げ、今年連れて行くと約束したのだ。
そのため――今に至る。
「咲…帰ろうよ」
「やだぁ! まだ遊ぼーよ」
そこに座り込み、まるで欲しい物を買ってもらえない幼児のような仕草を見せる咲。慧は髪を掻くなり、何かに気付き歩き出す。
「ちょっと、慧!?」
「何か人が集まってる!」
野次馬と言うのは、こう増えていくのだろうか。慧は、人集りが出来ている場へと足早に駆け出して行く。
「待ってよ!」
もうカニは良いのか、駆け出す慧の背を追う咲。
慧が咲より少し早く人集りに辿り着く。人々が囲んでいる中には、何と驚くことに――…バスケットコート。
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