‐file1‐浅木 沙夜

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浅木 沙夜(あさぎ さや)はもう、うんざりだった。 「なによ、勉強勉強って。どうせ自慢したいだけじゃない!」 真夜中は静かで、どんなに叫んでも言葉が空に吸い込まれていくようだ。 私は満天の星空をじっと眺めて、ふと思う。 またあそこに行こうかしら、と。 そして、夜空を堪能しながらも、ゆっくりと歩み始めた。 私の通っている塾は、名門校99%合格というエリート塾。6時から12時まで、ずっと勉強尽くしだ。 私は、そんな塾が大嫌いだった。 もともと親に無理強いされて行かされている塾。 親はスパルタで、名門校に通らないと叩かれ……いや、殴られるの方が正しいか。 90点以下だと、絶対に棍棒を持った父さんが殴ってくる。 「何だこの点数は!」 母さんは無視して、よそを見ている。 父さんに逆らえないのだろう。 どんなに心の中で懇願しても、母さんは助けてくれない。 「ああ、着いた」 私はゆっくりと、そこへ近づいた。 虐待の日々に耐える私は、塾の帰りには、いつも行く場所があって。 嫌なことや苦しいことを、全て忘れさせてくれる場所。
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