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「あの、すいません」
「ようこそ、プレスタンツァホテルにお越しくださりありがとうございます」
受付の女性は素朴ながらも暖かな印象を与える人だった。栗色のショートヘアーで、年齢は大体二十代くらいだろう。
私は相手のふいを付くように、いきなり懐に入った写真を相手に見せ、単刀直入に訊く。
「突然で申し訳ありませんが、この人をご存知ですか?」
彼女は言われるまま、渡される写真に目を通す。
途端、彼女は露骨なほど表情に変化を表した。
「ご存知ですね」
動揺しているところをみて、反応ありと判断した。けど、知っていて当たり前だ。
公平は半年前まではここで働いていた人間。彼女に反応がない方が返っておかしい。
「あなたは?」
「申し遅れました。私はこういうものです」
と、私は自分の名詞を彼女に渡した。
「宇都宮、探偵事務所所長……。あなた、探偵さんなんですか?」
「はい。今、この写真の方、公平さんの捜索を行っているんですが……もし時間の方がよろしければ、ちょっと伺ってもよろしいですか?」
と、私は少し強気な発言に出た。
正直なところ、彼女から訊きだせるとは考えてない。
きっと、これくらいの若い女性は経験不足で、あたふたとし「ちょっとお待ちください」と言った後に、ここの上司を呼んでくるだろう。
そう。だから、私はわざと経験不足そうな若い彼女を狙ったのだ。
いきなり「責任者を呼べ」なんて言ったら、返って私が怪しまれてしまう。
こんな行動は素人には理解しがたいかもしれないが、こうした展開を始めから先読みしてから行動するのも、ひとつの手だ。
……なんて、偉そうに思っていたのもつかの間、展開は思わぬ方向へ向かった。
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