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落胆に声を落とし、深い溜め息を付く私。ここで、辞表という手がかりが見つかれば、捜査の動きも的を絞れそうなのだが。
「では、質問を変えますが……辞表を出したとなると、公平さんの退職金などはどういたしましたか?」
「ええ、ちゃんと支払いましたよ。総支配人がいうには確か、三百万を銀行振込みで」
三百万、か……それくらいが妥当な線だろうな。山本も嘘を言っているとは思えない。こういう調べれば、すぐにわかるような情報に嘘をつく奴は頭の悪いバカくらいだ。
「公平さんが突然、仕事を辞めたことに心当たりはありますか?」
「いえ。私も姫田君には辞める理由を何度も訊いたのですが、何も教えてはくれませんでしたから」
「そうですか。わかりました」
私は腕時計に目をやると、手帳を懐にしまう。
「もう、よろしいんですか?」
「はい。山本さんも奈美さんも忙しいところ、ご協力ありがとうございました。また、なにかあった時はよろしくお願いします」
と、最後に礼を告げると、私はさっさとホテルを出て行くことにした。
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