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……が、次の瞬間、私は目が点になるような感覚で、立ち尽くしてしまった。
「こんにちは」
と、そこに立っていた人物は、私が出てきた途端、明るく愛想の良い笑顔で挨拶をする。
私はそれに対し「こんちには」と戸惑いながらも返事を返したが、その後のセリフが出てこない。
それもそうだろう。
そこにいたのは紛れもなく女子高生なのだから、平然とはしていられない。
格好は制服の上に白いダッフルコートを着ており、肩にはショルダーバックが下げられている。容貌は透き通るような白い肌に、端整に吊り上がった眉と二重瞼が、彼女を幼く見せてしまう。ウェーブのかかった黒髪を肩まで伸ばす可愛い子だった。
ただ、ここに来る人間としてかなり場違いであることには、なんの変わりもないことだが。
私はとにかく冷静になり、念のために確認しておくことにした。
「君さ、ここが何処だかわかるかい?」
「宇都宮探偵事務所でしょ」
「……えっと、今日はなにか御用で?」
「用がないのに、わざわざこんな場所に来ると思う?」
「そうだよね。いや、疑ってるわけじゃないんだ。君くらいの年頃が来るのは初めてのことだから」
と、私は内心焦りつつ、平常心に対応する。
今までの経験上、高校生が依頼人という例は当然ながら一回もないことだった。しかも子供っぽい容貌なので尚更、中学生くらいの視点で見てしまう。
まあ、実際、私からしてみれば、中学生も高校生もなんの変わりもないが……。
依頼とはペット捜しだろうか? それとも、ストーカーに追い掛け回されてるとか? 彼女だったらその可能性も否定は出来ないが、とにかく、本人に直接訊かないとわからないことだ。
私は気を取り直すと、すぐさま「どうぞ。話は中で伺います」と、先程の失礼を訂正したうえで、彼女を事務所の中へと案内する。
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