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「はい、どうぞ。クリープと砂糖は入れて良かったんだよね?」
彼女を応接間に迎え入れた私は、そのまま彼女をソファーに座らせ、テーブルにコーヒーを置いた。
素直に嬉しそうな声を上げた彼女は、コーヒーカップに手を伸ばす。
「さすが、気が利くね。外寒かったからさ」
「学校帰りだよね。学生も大変だね」
「そうでもないけどね……ああ、このコーヒー甘くて美味しい。本当さ、コーヒーって好き好んでブラック飲む人の気が知れないわよね。探偵さん」
と、彼女はさっき子供扱いしたことを根に持った言い草だったので、私はただ相手の視線から避けるように目を逸らし「人それぞれさ」と、その場はごまかした。
「ところで、君の名前は」
「姫田海夢(ひめた みゆ)だよ」
「みゆ?」
「そう、私の名前。珍しい名前でしょう。海と夢って書いて、みゆって読むの。これ、お父さんが付けてくれた名前なんだけどさ。名前の由来は、海のように広い心で、大きな夢を描く人間になりなさいって意味なの」
「いい名前だね」
「そうでしょう。で、お兄さんの名前はなんていうの?」
「僕かい。僕は宇都宮真次。真実の真に、次っていう漢字を合わせて、真次」「へぇ、真次もいい名前じゃん。ちゃんと、付けてもらった親に感謝しなきゃダメだよ」
と、海夢はニコニコと柔和な顔付きで生意気なことを言う。
よく喋る子だ。なんだか、自分の立場をよく理解していないようだな。
とにかく、相手にペースに惑わされる前に早く本題に話題を切り替えた方がよさそうだ。
「それはありがとう。ところで、そろそろ用件の方を訊きたいんだけど」
と、本題に移ると、ビクッと表情を硬直させた海夢は気まずい様子で目を伏せる。
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