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あまり突然に訊くのはよくなかっただろうか?
ふいに相手の様子を伺っていたが、しばらくすると海夢は真剣な顔をあげる。
「実はね。人捜しをしてるの」
「人捜し?」
一瞬、耳を疑った。
決め付けていたのは失礼だが、てっきり私はストーカーとか、ワイセツ類の依頼かとばっかり思っていた。
が、今言った海夢の言葉と顔付きを見た限り、彼女が背負っている不安は、私が想像している以上に相当に厄介なものかもしれない……という不吉な予感は脳裏の中を過ぎらずにはいられなかった。
「誰を捜している?」
「お兄ちゃん」
「お兄ちゃんって、誰の?」
「私のお兄ちゃんに決まってるでしょう。もう、半年も帰ってこないの」
なんと……こいつは驚いた。失踪事件だったとは。
耳にした途端、先程までは半信半疑だった私も、大きな事件を目の辺りにした新聞記者のような好奇心で、とっさに胸ポケットに入った手帳とボールペンを取り出す。
「警察に捜索願いは出したのかい?」
「当然、出したわよ。だけど、結果的に半年経った今も見つかってない」
「お兄さんから連絡は?」
「ないわ。だから、もう心配で、心配で……だから、この辺でちょっと無愛想だけど、腕の良い探偵がいるって噂を聞きつけて、ここに辿り着いたわけ」
ほう、腕がいいね。でも、無愛想っていうのは一言多いな。
「……で、捜して欲しい人は海夢のお兄さんになるんだね」
「そうよ。もう、頼めるのは真次しかいないの」
「ああ。期待してくれるのはいいけど、せめて名前で呼ぶなら、ちゃんと『さん』付けで呼んで欲しいものだね」
「あら、それは強制?」
「いや、別に」
「それじゃ、いいじゃない。人との信頼を深めるための一番いい方法は、お互いに呼び付けで呼び合うことよ。違う?」
「ああ、そうだな。好きにしてくれ」
私は海夢の屁理屈に呆れ、眉間を抑え長い溜め息を吐いた。
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