265人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ、まず聞き込みから始めるよ。お兄さんの名前。年齢。職業を順番に教えてくれ」
「姫田公平(ひめた こうへい)。二十七歳。職業は半年前まではホテルマンだったの」
「半年前まではホテルマンだったっていうのは、どういう意味?」
「退職した……みたい」
と、語尾の「みたい」というところは相当自信なさそうといった感じだ。
私は早くも困ってしまった。「みたい」では困るのだ。情報は確かなものでないと、探偵である私も動き出せない。
「退職したのか。そうでないのか。その辺をはっきりしてくれ」
私は強い口調で訊き返す。すると。海夢は少し沈黙を置いた後、首を傾げながらまた自信なさそうに言う。
「会社の方では退職したって言っているけど、私は未だに信じられないの。お兄ちゃんが私達になんの相談もなく仕事を辞めるなんて……私はお兄ちゃんを信じているから」
「そうか、わかった。その辺はきちんと僕が調べるから心配いらないよ」
今にも泣き出しそうな海夢を慰めるように相槌を打つ。
全く、かなりのお兄ちゃんっ子のようだな。こういう依頼人は、たまに真実を自分のいい方に解釈してしまう人間が多かったりするので、正直厄介だったりする。
「これ、お兄ちゃんの写真と名詞。必要だと思って持ってきたの。後、これが契約金。中には十五万入ってるから」
海夢はショルダーバックの中から、テーブルに写真と名刺、そして封筒と順番に置いていく。
最初のコメントを投稿しよう!