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「…に、病気に負ける位なら、自分から逝くよ。」
突然の言葉、俺も決意する。
「分かったよ。」
最高の笑顔と涙で答える彼女。
「ありがとう、今まで」
「ただし、俺も一緒だ。二人で逝こう。」
彼女は一瞬驚くが直ぐに笑顔に戻り頷く。
でも俺は気づいていた、彼女の肩が震えているのを。
徐々に屋上の端、手すりに近付く。先に手すりを越えて彼女の手を引く。
二人で立つ終焉の入口。二人で発つこの世。
ぎゅっと手を握る。震える細い手。
「一緒に生きて、一緒に逝こう。」
二人の体が傾く。重力に身を委ね始める。
「ぃゃ、いや!いやぁ――!」
こうなることはわかっていた。
病気に蝕まれていた彼女は【死】を誰よりも嫌っていた。
直ぐに体勢を整え彼女の体を抱き寄せ手すりを強く引く。
「死にたくないよぅ…、君どずっとずっと生きていたい。」
彼女の悲痛な叫び。
俺は決めた。彼女の残りの人生を、一緒に歩もうと。生きて行こうと。
幸せにしたい。ただそう思った。
「結婚、しよう。すぐに。」
うぇ?
と間抜けな返事をする彼女。
なにが起きたか解らない、という顔。
「結婚してくれ。」
もう一度、思いを告げる。ありったけの愛を込めて。
「気持は嬉しい、でも私はもう長くない。君は一人になる。そんなことは嫌だ。」
そうきたか…。
「どのみちお前が居なくなったら俺は一人になる。それなら、少しでも長くお前と一緒にいたい。だめか?」
迷いなく出た一言。
「嬉しい、私からもお願いします。結婚…してください。」
鼻をすすり、涙を拭いてやっと出た返事の言葉。
「ああ。一緒に生きよう。今を、精一杯。」
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