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もうすぐそこまで、冬がきている。そう感じさせるほど、冷えた夜風が酒で火照った身体にも寒さを伝えた。
僕は、ゆっくりと駅へ向かった。平行感覚が曖昧になっているせいで、電柱にぶつかったりしながらも、なんとか駅にたどり着く。
この時間は、電車に乗る人もまばらだ。まだ暖房が入れられていない待合室は肌寒く、暖かい缶コーヒーを買った僕は、入り口から少し離れた席に座って電車を待つ。
「柊君も帰るの?」
うつ向いていた僕の名前を読んだのは、あの姫川さんだった。
「姫川さん、二次会行かなかったんだ?」
「うん、その…ちょっと忙しくて。明日も早くから仕事があるから。」
「そうか…そうだよね。」
「柊君、北島君が実業家だとかって言ってたけど、会社経営でもしてるの?」
「え?」
「まだ若いのに、凄いわ。あ、上りの電車が来るみたい。柊君も同じ電車よね?行きましょう。」
彼女は、スタスタ歩き出した。僕は、彼女の後ろをついていく。
時が流れても、やはり彼女は華やかだ。軽やかに階段を登る姿に、思わず笑みがもれる。
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