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「えぇ…もしかして、私だけ…?」
数学研究室、略して数研に来た苺はガランとした室内を見渡して肩を落とした。
時間になったのに生徒が誰も来ないと思っていたら…。
「一年で赤点をとる奴なんて普通はいないからな、普通は」
声のしたほうを見ると苺のクラスの数学担当教師、藤井晃が入り口のドアに立っていた。
「先生、なんだかその言い方だと私が普通じゃないみたいに聞こえるんだけど」
やけに普通を強調するので、苺が思わす突っ込むと当然だとでも言いたげに藤井は眉を寄せた。
「普通じゃないから言ったんだ」
そうしてそのまま苺の座る席までやってくると、プリントの山を机に乗せた。
「これを全部やれと?…まさかね?」
ざっと100枚はあるだろうそのプリントに苺は冷や汗をかいた。
「そのまさかです。一年で唯一の赤点さん」
「えぇ!?これ宿題より多くない!?」
あまりの量に苺は瞬きすら忘れて、そのプリントの山を凝視する。
…嘘でしょ…?
藤井晃、数学教師
クールで几帳面なイケ面教師で有名。
女子生徒には人気があるらしい。
でも私には冷徹で口が悪い嫌味教師にしか見えない。
枠にはまらないと気が済まないタイプだと思う。
綺麗な絵には綺麗な額縁って決まってるみたいにね。
だから苦手。
数学の教師っていうのもあるけど。
綺麗な絵にだって変わった額縁でもいいと思うんだ。
どっちも綺麗さを主張していたら衝突しちゃうでしょう?
だからどっちかに個性があったほうが両方とも栄えるんだと思うの。
私はそっちのほうが断然好き。
でもきっと藤井は綺麗な絵には綺麗な額縁をって思うのかな。
なんてつまらない人。
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