637人が本棚に入れています
本棚に追加
「お待たせ致しました」
さばさばとした口調。
自身の名前と所属している科の名前を告げ私の目を見る。
とりあえず聞こう。
聞かなければ何も進まない。
それまで抱いていた恐怖と焦りをひとまず振り払った。
「単刀直入に申し上げますと」
きた。単刀直入とはよく言ったものだ。
鋭利なナイフが突き刺さってくるような的確な表現だ。
「息子さんは低血糖症と思われます」
低血糖症?なんだそれ。
「発症した過程はまだ判断がつきませんが、おそらくそうと思われます」
過程なんてどうでもいい。その場はそう思っていた。ともかく風邪のように直ぐに治るものであればいいからだ。
「それは直ぐに治るものなんですか」
少し期待を込めて、軽いものであって欲しい、心からそう思った。
しかし、医者からでた言葉は、私の頭から「思考」というものを奪い去るものであった。
「残念ですが、無理です」
「様子を見るために最低2週間。容態によればそれ以上を覚悟してください」
「入院の手続きを済ませておいてください」
「保険証はお持ちですか」
「ご主人の会社様の方で、早めに手続きしておいて下さい」
「念のため先天性の病気の検査等を行いますので、ご主人様のご署名をこちらへお願いします」
淡々とした話し方だった。
こちらから質問することもできずただ頷くのみ。
そして、
「何かわからないところやお聞きになりたいことはありますか」
いやいや、
聞きたいことだらけです。
なのに質問が出てこない。
怯えている?
現実を。
怖い?
現実が。
あのドキュメンタリー番組が頭の中にフラッシュバックしてきた。
「あ…あの、この病気は稀な病気なのですか?」
少し顔をしかめながら医師は放った言葉は
「10万人に1人と言われています」
完全に思考が停止していた。
最初のコメントを投稿しよう!