不自然な迷路

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迷路、というには少し躊躇いそうな可愛い空間がそこにはあった。 美味しそうなお菓子でできた門はニセモノでもバク蔵の口をよだれで満たすには十分すぎるほどリアリティがあり、甘い匂いが漂ってきそうなまでに精巧にできている。 扉は常温で溶けそうなチョコレート。ドアノブは透き通るような飴細工。屋根は甘酸っぱそうな苺を乗せたショートケーキで出来ていた。 「バク蔵、かじりついたら歯が折れるわよ。」 元からバク蔵に歯はない。 だがしかし物の例えだ。 何より、こんな風に余裕のない時ぐらいは集中してもらいたいものである。 「わ、わかってる!」 慌ててよだれを拭き小さな手で自分の頬に気合いをいれるためにぺちぺちと叩く。 それでも小さな瞳はお菓子の門を一口でも齧りたいと語っていた。
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