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談話室は、同じフロアの少し入り組んだ場所にあった。面会に来た人達が、徐々に元気になってきた自分の家族とお茶を飲んだり、テレビを見たりしていた。
二人は賑やかな部屋の中心付近のテレビ前を避けた。
衝撃的な光景を見た秋吉は、まだ、頭で理解出来なくて何も話さずにボーッと座っていた。
陸斗は自動販売機で買ってきた紙コップに入ったコーヒーを秋吉の前のテーブルの上に置き、自分も紙コップを持ってテーブルを挟んで座った。
「コーヒーでいいですよね」
「あぁ……」
まとまらない頭の中で、言葉を選びながら、秋吉は問い掛けた。
「あ……相河君、あの人はどなたかな……僕はてっきりご両親に会わせてもらえるのかと……」
陸斗はまた少し笑った。けれども、秋吉には泣いているように見えた。
陸斗は少し目を逸らして話し始めた。本当に消えてしまいそうな、小さな声で。
「僕に……両親はいません」
「え?」
「兄弟もいません。あ……正確には行方不明かな」
秋吉は言葉が出なかった。
何も言わない秋吉を見ないまま、陸斗は話しを続けた。
「ベットで寝ていたのは、僕のたった一人の血の繋がった肉親です……」
陸斗は立ち上がり、窓の外を見ながら言った。
駅に近いこの病室の窓からは、駅のホームや線路、駅前のビルが見えていた。
秋吉はまだ何も言えなかった。
陸斗はしばらく黙って外を見ていたが、ぽつりと言った。
「聞きたいですか?」
少し間を開けて、秋吉は陸斗の背中を見た。小さな背中だと思った。秋吉も背中に向かってぽつりと言った。
「……話して……くれる?」
「はい」
返事をすると、陸斗は今度は秋吉の斜め前の席に座り、半分飲みかけのコーヒーを片手で回しながら話し始めた。
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